細菌なしでは生きていけない私たち
コラム
細菌というと「えー、きたなーい」という声が聞こえそうです。コマーシャルでは『除菌○○○○、抗菌○○○○、殺菌○○○○』こんな言葉をよく耳にします。
そうかと思えば「ヨーグルトやぬか漬け、麹漬けなど乳酸発酵させた食品を食べると、善玉腸内細菌を増やせるから良いよね。私、毎日ヨーグルトを欠かさず食べてます。」という人もいます。
悪く思われたり良く思われたりする細菌ですが、実は私たちは細菌がいないと生きてはいけないということをご存知でしたか?
海水浴場では毎年、海水浴の季節を迎えると水質検査が行われ、大腸菌が多いと海水浴場として不適合と言われることから、大腸菌は人体に悪いものだと思われていますが、大腸菌は全ての人の腸内に常に棲息していて、食物として食べた肉などを分解して、私たちが吸収しやすい形に分解してくれます。私たちの栄養素の吸収に一役かってくれているんです。
大腸菌は私たちのために腸内に棲息しているのではなく、自分たちが生き残るための食糧を得るためには腸内が最適だからです。互いが利用し合うことで生命を維持することを共生といいますが、大腸菌と私たちは共生しているのです。
大腸菌以外にも細菌や微生物が腸内に棲息し、大人の場合は少ない人でも60種以上多い人は100種類、その数は100兆個になるといわれ、その重さは約1~1.5㎏にもなります。私たちの身体は60兆個の細胞でできてると言われますが、その数よりもっと多いのです。
腸内に棲息する細菌は集団(コロニー)をつくり、その景色は異なる種類が色とりどりに咲き誇る花畑を連想させることから腸内フローラと呼ばれます。そして異なる細菌群は、種の生存のために陣地の取り合いを図り、すきあらば取って代わろうとしています。
腸内フローラとして存在する菌を腸内常在菌といいます。
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があると言われますが、私たちが健康な毎日を送っている時には悪玉菌は腸内に存在していないかというとそうではありません。存在しています。数が少ないから悪さをしないということなのです。日和見菌も同様のことが言えて、腸内フローラのバランスが変わることで、私たちにとってプラスの働きになったりマイナスになったりするのです。
私たちが常在菌の働きを利用しながら健康な体を維持するには、細菌群のバランスが大切です。60~100種もある細菌群のそれぞれのより具体的な働きというのは明らかにされてはいませんが、一部の細菌種でその働きが明らかにされているものもあります。
詳しくは以下の書籍をご紹介しますので読んでみてください。
「あなたの体は9割が細菌」 アランナ・コリン 著 矢野真千子 訳
もちろん、有害細菌も存在します。チフス菌、サルモネラ菌、赤痢菌等など体内には入ってはいけない細菌です。しかしこれらの有害細菌の侵入を阻んでいるのは、免疫細胞と共に腸内常在菌でもあるのです。
また、皮膚にも常在菌がいてその数は1兆個ともいわれますが、腸内細菌同様に種類も多く人によって差異があります。
常在菌のひとつに表皮ブドウ球菌と呼ばれる菌があります。ブドウ球菌という名前を聞くと害を及ぼす菌というイメージを持つ人も多いと思いますが、顕微鏡で覗いたときにブドウの房状に塊をつくっていることからこのような名前が付けられました。そして、ブドウ球菌には20種類以上の仲間がありますが、すべてが害を及ぼす菌ではありません。
害を及ぼす代表的なものに黄色ブドウ球菌があります。ただし黄色ブドウ球菌も皮膚常在菌のひとつで、人体の皮膚や毛穴、鼻腔粘膜に棲息していますが、健康な皮膚や粘膜であれば害を受けることはありません。外傷や炎症により皮膚や粘膜が侵されたとき、そこに増殖し毒素を分泌するためその毒素の影響を受けて発病するのです。
表皮ブドウ球菌は皮脂や汗を餌にして酸性の分泌物を出しますが、この分泌物が皮脂の脂肪酸と共に皮膚表面を覆うことで、皮膚全体が弱酸性に保たれます。病原菌の多くはアルカリ性を好むので、皮膚についた病原菌は弱酸性に侵入を阻まれます。
表皮ブドウ球菌の産生物質は皮脂と共に皮膚のバリアを形成してくれているのです。
清潔さを求めてアルコールで殺菌したり除菌洗剤を常用していると、皮脂は洗い流され表皮は乾燥し、表皮ブドウ球菌も死滅してしまうため、酸性の肌を保つことができなくなってしまい、ここから病原菌の侵入を許してしまうことになります。
清潔を心掛けることは大切ですがあまり神経質にならず、悪さをする細菌に負けない皮膚や粘膜のコンディション作りと免疫力を高めることが大切ですね。